僕やっぱり勇気が足りない遍
友人の就職祝いに山本耳かき店*1に行ってきた。ここは浴衣姿のきれいなお姉さんが膝枕をしてくれて丁寧に耳かきをしてくれるという噂の店。『長い就活で、いろんな面接官のオッサンに耳元で「不・合・格、ふふ」ってささやかれ続けて、耳の中汚くなってるだろ?耳だけ加齢臭するよ。』って言って友人を説得した。『たまに耳たぶ甘噛みされたよ・・・就活疲れたよ・・・俺癒されたいよ・・・』って友人がボケに乗ってつぶやきだしたのがめんどくさかったので急いで新宿へ向った。
場所は西新宿。近くには有名な讃岐うどん屋、麺通団。暗い路地にある、陰鬱なビルの8階。ドキドキとワクワクを抱えて狭いエスカレーターに飛び込んで着いた先に見た店の玄関は、完全にマンションの一室。あー。
僕の中で昔死んだはずのチェリーボーイが蘇って来る。耳かきなのに物凄くいけないことをしに行く気分。友人も『やっぱり逃げよう!』と怯え出している。夜の遊びなんてしたことない僕らは『無理だって!風俗よりも敷居高い気がしてきた!』とマンションの廊下でおどおどする。景色は新宿ビル群。もう、俺ら、あの頃の純粋な自分に戻れないのかな、花火をドレッシング無しで食べることが出来たら浴衣姿のあの子に告白しようだなんてもう言えないほど汚れようとしてるんだなあ。って、凹む。そして僕にバレないようにエレベーターのボタンを押して逃げようとする友人。
僕は慌てて友人の背中にヒアルロン化粧液のボトルを投げつける(←鞄の中に固いもんはこれしかなかった)。痛さに立ち止まり、背中が少し潤いながら『ごめんよお・・・』って謝る友人。
僕らは決心した。行こう。入る。薄暗い。男の店員さんが『すいません、お一人の方は30分待ちです』と言ったので、先を譲り合う僕ら。店員さんの前で『ういーんじゃんけん』を本気でやろうとしたのを恥ずかしがって、友人が自ら先に入店することを宣言した。僕は30分待ち、店の中に待つところがないので僕は外へ。お姉さんの『うふふ・・・み・み・く・そ』って声が漏れ聞こえている店を尻目に僕は去った。
待つ。落ち着かない。僕はお腹空いてないのに麺通団に入ってうどんを食べる。ヤクザの人の目の前でそわそわしながら水を飲んでにらまれたりもした。恋人に電話して大爆笑されたりもした、『男にしてもらいなさい』って激励された、『お前の耳の汚さは私が一番よく知ってる、お姉さんに失礼だから耳をきれいにしてから行きなさい、さあ、道ばたに落ちてる注射針で耳掃除しろ!』って怒られた、いくら新宿だからってそんな注射針落ちてなくて僕は途方にくれる。
そして30分が経ち、再び僕は店へ向う。エレベーターで降りて来る友人とすれちがう、満面の笑み。『はっはっは、よかったよ』と絶賛する友人を見ても緊張はどんどん高まる。お母さん、僕は今日大人になります、立派に戦ってきます。もし、今日僕が死んだら、遺影は耳の中をアップにした写真でお願いします。じゃあ、さよならだ・・・・