大阪のローマピザ職人しもせのホワイト飲食経営論的な何か

年商2億円・年間休日130日のホワイトなイタリア居酒屋とラーメン屋を6店舗経営/本職ローマピザ職人/元飲食広告制作サラリーマン/損益分岐点の低いローコストほのぼの飲食経営スタイル広めて、飲食業界を過労しなくても成功する世界にしたい/全国750社参の飲食経営勉強会の2019年MVP経営者💖←参加企業募集中(個人店OK)

スタッフにおいしくいただかせたい

食べ物は出来るだけ無駄にしてはいけない。


疲れた体に無音は雑音でしかないので、集中しなくても問題ない音をテレビに吐き出してもらう。一人暮らしの処世術、音が無いと寂しい。さっきからことこと煮込んでいる野菜スープが沸き立つ音が心地良く優しく響き始めたので別に見てないテレビは消してもいいかーと思い、いつだって何処にあるかわからないリモコンを冷蔵庫の中から取り出し消しボタンを押そうとすると流れ出す映像は、ゴボウ高飛び。


屈強な肉体をした芸能人達がゴボウを地面につきたてしならせ高く高く飛ぼうとしている。当然、ゴボウはパキパキ折れる、誰も空に飛べない。最後の勝負、ミスターオクレVS福田総理。スタートして2秒でコース側にある炊き出しの豚汁に競技用ゴボウをささがきしていれてしまった福田に対して、ひょろい体をやわらかくするどく研ぎすませ、ゴボウを折れるギリギリまでしならせたミスターオクレが鮮やかに宙に舞った。感動のシーンである。誰も到達出来なかった境地にオクレはゴボウでたどり着いた。しかし、日本の政治が劇的に変わる瞬間であるはずなのにぐちゃぐちゃになったオクレとゴボウの映像に水を差すテロップが表示される。


『この撮影で使われた食材はスタッフがおいしくいただきました』


食べ物は粗末にしてはいけないが、食べ物は食べるためだけに存在しているのではない。食材を食事に限定するのは独創性を檻に閉じ込めることである。オクレが日本の代表としてサブプライム問題に飛び込むかもしれない時代の幕開けを僕らは価値観の狭さと怯えに苦笑いしながら眺めることになってしまった。そして僕は自分の携帯電話を眺める。3秒後には鳴り出すだろう。



妹 『もしもし!お兄ちゃん!それとも、やしゃご!?』
僕 『お前14歳なのに何で孫を凌駕する存在を確認するねん。』
妹 『テレビ見てた?それとも、醤油見てた?』
僕 『何で日常的に調味料を見つめなあかんねん。』
妹 『テレビでまたあのテロップが出たね!』


妹は将来料理人になりたいと最近よく言う。だけれど、どぎつい天然ボケの妹のことなので、当然普通の料理人ではないみたい。妹は『撮影に使われてぐっちゃぐちゃになった食材を調理して本当にスタッフにおいしくいただかせる料理人』になりたいそうだ。


妹 『絶対おいしくいただいてないわー!』
僕 『そうかもね、でも、ほら、責任逃れのために建前は大事だよ。』
妹 『それでもいいけど、嘘はあかんやろ!』
僕 『あまり気持ち良いものではないね。』
妹 『本当においしくいただいてほしいな!私、頑張る!』
僕 『料理人としての志はだいぶずれてるけどね。』


妹はテレビで見たボロボロになった食材と同じ者を調達して、どうすれば美味しく料理出来るかを考えるようにしている。


妹 『今日はゴボウかー!ゴボウで何を作ろうかな!初めての共同作業用にしようかな!』
僕 『誰もウェディングケーキ入刀をゴボウでしたくないやろ!土臭いわ!』
妹 『じゃあ、世界中のハーブティーに少しづつ混ぜるか。』
僕 『ティータイムにリラックスしにくくなるわ!』
妹 『じゃあ、漢方薬にでもするか。』
僕 『料理人なら調理しろよ!さっきから調理の行程の話出てないよ!』
妹 『普通にきんぴらにしようかな。』
僕 『いきなり無難!』
妹 『じゃあもういいよ!文句ばっかり!お兄ちゃんなんか背骨がゴボウになってしまえばいいのに!』
僕 『立ってられへんわ!』


数日後。人魚、という生き物がリアス式海岸で発見された。下半身は魚の形をして、上半身は魅力的な女性の形をしている。何かの童話を通して共通の人魚イメージを僕たちは持っているのだと思うけれど、まさにそれだ。リトルマーメイド、とても美しい。流行の可能性を秘めた話題に貪欲なテレビ局は当然特別番組を作る。いまや日本の代名詞となったオクレと人魚を結婚させて、世界中の海を支配してみるのも一興かしら、というのだ。他局に出し抜かれまいとスピードを意識したテレビ曲は生放送でオクレのプロポーズを日本中に流す。それに怯える人魚、体中がガクガクと震え出す、異常、明らかにおかしい。そして、死んでしまった。理由はわからないが、下半身が自らと異なるたくさんの人間達に囲まれて恐怖したのだろう、僕だって世界中の僕以外の人間の足が魚なら怖くてたまらない。まあ、悲しいけれど主題はそこじゃない。


テレビのリポーターはとてもとても慌ててしまった。目の前で人魚が死んでしまった。そしてマスメディアとして日常的に恐れている視聴者からの過剰な攻撃イチャモンが脳裏に映し出される。混乱。どうにかこの場を取り繕わないといけない。目の前で魚が死んでいる、これは撮影に使われたものだ。死を無駄にしてはいけない。そして、口走る。


『撮影に使われた食材はスタッフがあとでおいしくいただきます!あ!ちょ、ああ!言っちゃった!』



妹 『もしもし!お兄ちゃん!?それともAIBO!?』
僕 『勝手に電話に出るAIBOなんておらんわ!』
妹 『今、テレビ見てた?それともナンプラー・・』
僕 『毎日調味料を見つめるわけじゃねえ!』
妹 『すごいショックな映像だったね・・・日本に初めて米が伝わった時なみにショックだね・・・』
僕 『弥生時代の話を比較に持ち出されても、そのショックお前知らないやろ』
妹 『あまりに驚いたものだから隣の家に住んでるザビエルにキリスト教を布教させちゃった』
僕 『日本のキリスト教の幕開けはお前やったんかい・・・』
妹 『でもどうしよう、私、人魚を調達するのは無理だよ』
僕 『今日も調理するのかい?なあ、あんなことをしたスタッフにおいしくいただかせることを考えなくてもいいんじゃないか?』
妹 『そうだね。』
僕 『うん。』
妹 『ところでお兄ちゃん、サバや秋刀魚を持って火の輪くぐりする気ない?』
僕 『志を曲げないつもりか!』
妹 『死なない調理は難し過ぎるね』